東欧の一角に位置するルーマニアは、複雑な歴史を背景に独自の政治体制と制度を築き上げてきた国家である。
社会主義体制から民主主義へと移行し、現在ではEUおよびNATOの加盟国として域内の安定と安全保障に貢献している。
ここでは、現代ルーマニアの制度的枠組みや内政の動向を詳しく読み解く。

半大統領制という政治構造
ルーマニアの政治体制は、議院内閣制と大統領制を組み合わせた「半大統領制」に分類される。
この制度の下では、国家元首としての大統領と、行政の実務を担う首相が権力を分かち合う。
大統領は国民による直接選挙で選ばれ、外交・国防・安全保障の分野で大きな影響力を持つ。
首相は議会多数派の支持を背景に政権運営を担い、行政各省庁を統括する。
両者は互いに補完しつつも、政治的緊張の原因となることも少なくない。
特に異なる政党出身の大統領と首相が同時に存在する場合、「コアビタシオン(共存政権)」による対立が顕著になることがある。
これは1990年代以降何度も経験されてきた政治現象であり、ルーマニア政治における制度的ジレンマを象徴する。
二院制議会と選挙制度
ルーマニアの立法府は、国民議会(下院)と元老院(上院)の二院からなる。
議員は比例代表制によって選出され、任期は4年である。
複数政党が乱立するルーマニアでは、単独過半数を得る政党は稀であり、連立政権が一般的な形態となっている。
2020年以降も、リベラル系と社会民主主義系の政党が連携や対立を繰り返しながら政権を構築してきた。
この連立政治は一方で妥協による安定をもたらすが、他方で政策決定の停滞や短命政権の連続という課題も生んでいる。
過去10年で首相が何度も交代しており、国民の政治不信を招く一因ともなっている。
司法制度とEUとの関係
ルーマニアの司法制度はフランス法系に分類され、法の支配と権力分立を基盤にしている。
最高裁判所と憲法裁判所が存在し、判事の任命は大統領の提案に基づいて行われる。
EU加盟(2007年)後、司法制度改革と汚職撲滅が重要課題として浮上しており、ブリュッセルからの圧力に応じる形でさまざまな改革が実施されてきた。
とはいえ、いまだに政治家や行政機関の汚職疑惑は絶えず、EUからの「監視付き加盟国」として扱われることもある。
国民の間でも「司法への信頼」が十分とは言い難く、根本的なガバナンス改革が引き続き求められている。
地方自治と行政構造
ルーマニアは単一制国家であり、行政区画は41県(ジュデツ)と首都ブカレストで構成されている。
地方自治体には一定の予算権限と行政裁量が認められているものの、依然として中央政府による管理色が強く、EUが推進する地方分権のモデルとはやや異なる。
特に農村部や山岳地域では、交通インフラや公共サービスの整備が遅れており、都市部との格差が問題となっている。
教育や医療などの公共部門でも地域間のサービス水準に差があることが、社会的・経済的課題を複雑化させている。
内政課題と国民の関心
近年の内政における最大の課題は、人口減少と若年層の国外流出である。
ルーマニアは出生率の低下に加え、EU自由移動圏における「出稼ぎ労働」の中心国ともなっており、労働力の流出と高齢化が深刻化している。
これにより社会保障制度への圧力が増しており、年金制度や医療制度の持続性が問われている。
また、経済格差やインフラ整備の遅れ、汚職への不満も国民の不信を呼んでおり、SNSを通じた若年層の抗議運動も活発化している。
とくに都市部では政治に対する関心が高く、選挙参加率の向上や新興政党への支持拡大といった動きも見られる。
国際的な文脈の中でのルーマニア
ルーマニアはEU・NATO加盟国として、地域安定と国際協調を重視する姿勢を打ち出している。
ロシアのウクライナ侵攻以降は、黒海沿岸諸国の安全保障において重要な役割を担っており、防衛予算の拡充や米軍との軍事協力強化が進められている。
一方で、EUとの間では農業補助金や司法改革をめぐる意見の相違も存在し、完全な一体化には課題が残る。
国内政治と外的要因のバランスの中で、ルーマニアは「東欧の安定勢力」としての役割を模索し続けているのである。