南アフリカ共和国は、アパルトヘイトの終焉とともに民主化を果たし、憲法と議会制を基盤に歩んできた。
大統領制と二院制の仕組み、三つの首都を配した分権モデルは、独自の政治的バランスを象徴している。
しかしその一方で、経済格差や失業率の高さ、治安悪化、電力不足などの難題が内政を圧迫している。
与党ANCの一強が揺らぎ、国民統一政府が誕生した今、南アフリカは民主主義の成熟と制度改革の両立を問われる岐路に立っている。

複雑な歴史を乗り越えた民主主義体制
南アフリカ共和国は1994年の民主化以降、議会制共和政を基礎とした民主主義国家として歩んでいる。
国家元首と政府の長を兼ねる大統領は、国民議会によって選出される。
任期は5年で、再選は1回まで認められ、最大2期まで務めることができる。
この制度は、ネルソン・マンデラの登場とともに始まった新しい南アフリカの政治体制を象徴している。
政治体制は一院制に見えるが、実際には二層構造であり、下院にあたる国民議会(National Assembly)と、上院にあたる国家州議会(National Council of Provinces)からなる。
国民議会は400議席を持ち、比例代表制により選出される。
一方、国家州議会は9つの州から各10名ずつが代表として送り込まれ、地域の意見を国家政策に反映する役割を果たしている。
この制度は、アパルトヘイト時代の中央集権的で排他的な政治体制とは対照的に、包摂性と多様性を重んじた構造となっている。
三都制が支える分権モデル
南アフリカの政治制度でもうひとつ特筆すべきは、三つの首都を持つという特徴である。
行政機関はプレトリアに集中し、立法府はケープタウンに、司法機関はブルームフォンテーンに置かれている。
この三都制は、各都市の地政学的・歴史的バランスを反映し、権力の一極集中を回避する工夫でもある。
さらに、各州には独自の議会と首相が存在し、教育や保健などの分野で自治を行う。
こうした地方分権の枠組みは、民族的・文化的多様性を尊重しつつ、全国的な統一を保つ仕組みとして機能している。
支配政党の変化と連立の時代へ
1994年以降、南アフリカではアフリカ民族会議(ANC)が圧倒的な支持を得て政権を維持してきた。
しかし、近年ではその地位が揺らぎ始めている。
2024年5月の総選挙では、ANCは得票率が40%を下回り、過半数を喪失。
これを受けて野党・民主同盟(DA)や他の中小政党との連立に踏み切り、南アフリカ史上初の「国民統一政府」が誕生した。
この動きは南アフリカ政治の成熟を示すと同時に、選挙制度の透明性と有権者の意識の高さを裏付けている。
政権交代を伴わないまでも、与党の過信を抑え、政策の多様性を確保する点で重要な意味を持つ。
抱える内政上の課題
制度が整備されていても、現実の社会には多くの困難が残されている。
南アフリカは長年、経済的不平等、失業、貧困、治安の悪化など、深刻な課題に直面している。
ジニ係数は0.63と世界でも最も格差が大きい国のひとつであり、特に都市と農村、白人と黒人の間に根強い経済格差が存在する。
失業率は2024年時点で約32%に達し、若年層では50%を超えるとされる。
こうした状況が犯罪の増加や社会不安につながっており、治安問題も政府にとって喫緊の課題である。
警察の汚職、司法の遅延、公共サービスの非効率など、制度上の改革も求められている。
また、電力供給の不安定さも深刻である。
国営電力会社エスコムの老朽化や財政難により、頻繁な計画停電(ロードシェディング)が続いており、産業活動や市民生活に支障を来している。
市民社会と司法の役割
こうした状況にあっても、南アフリカの市民社会は活発であり、労働組合、NGO、ジャーナリズムなどが健全な監視機能を果たしている。
とりわけ司法制度は政治からの独立性を保っており、汚職事件や憲法違反の摘発において重要な役割を担ってきた。
2018年以降、ズマ前大統領を巡る汚職疑惑が裁かれたことは、法の支配が制度として機能している一例と言える。
また、憲法裁判所はLGBTの権利や死刑廃止など、人権分野で先進的な判断を下しており、南アフリカ社会の倫理的・法的基盤を支えている。
政治制度の中に宿る希望
制度としての南アフリカは、確かに多くの問題を抱えている。
しかしそれでもなお、世界の中でも特筆すべき民主的憲法と、権力分立、地方分権、市民参加の仕組みを持ち合わせている。
選挙の実施、言論の自由、司法の独立は、アフリカ大陸の中でも高水準に保たれており、改革の可能性を内包した体制と言えるだろう。
成熟と混乱、理想と現実、その間で揺れながらも歩みを止めない南アフリカの政治制度には、同様の課題を抱える他国にとっても示唆を与える側面が多い。
南アフリカの未来は、この制度の可能性をどう活かすかにかかっているのである。