チリの歴史は、先コロンブス期にこの地に根付いていた先住民族、特にマプチェ族の存在に始まる。
彼らはインカ帝国の南限を阻んだことで知られ、その後もスペインによる征服と支配に長く抵抗し続けた稀有な存在である。
チリの歴史と文化。

植民地、独立、軍事政権と民主主義の復活
スペイン人がチリに到達したのは16世紀中頃で、ペドロ・デ・バルディビアによるサンティアゴ建設(1541年)をもって植民地時代が本格化する。
しかし、地理的にアンデスの南、太平洋側という辺境であったため、チリはスペインにとって“利益の少ない”支配地であった。
むしろ、それゆえにチリの上層階級には独立志向が早くから芽生えていた。
19世紀初頭、南米の独立運動の波に乗って、ベルナルド・オイギンスとホセ・デ・サン・マルティンが率いる解放軍がスペイン軍を撃破し、1818年、チリは正式に独立を果たした。
その後のチリは、アルゼンチンやボリビア、ペルーとの戦争を経て現在の領土を確定し、19世紀末には銅鉱山と硝石産業を柱に経済成長を遂げた。
20世紀前半には議会制民主主義を志向しつつも、労働運動やクーデターなど政情不安が続く。
1970年代にはマルクス主義者サルバドール・アジェンデが合法的に大統領に就任したが、1973年にアウグスト・ピノチェト将軍が軍事クーデターを起こし、17年にわたる軍事政権が始まった。
ピノチェト政権は経済改革と共に言論統制や人権侵害でも知られる。
だが1988年の国民投票により非暴力で独裁に終止符が打たれ、以降チリは再び民主主義国家として復活した。
この経験が、現在のチリ国民の政治意識や自由への強い志向に深く根ざしている。
多層的な文化の織物
チリの文化は、大陸と島嶼のはざま、原住民と移民の交差点という歴史的背景から、多層的かつハイブリッドな性質を帯びている。
先住民のマプチェ文化は今も南部を中心に残っており、伝統衣装、儀式、言語(マプドゥングン)は学校教育でも部分的に継承されている。
また、キリスト教(主にカトリック)と先住民の信仰が混在したフォークロアも見られ、これは祭礼や音楽にも反映されている。
ヨーロッパ移民の影響も大きい。
スペインのみならず、19世紀後半にはドイツ系やイタリア系、クロアチア系の移民が南部を中心に定住したことで、建築様式や料理、言語にも独自の味わいが加わった。
特にドイツ系移民が開いた都市プエルト・モントやバルディビアでは、ビール醸造や木組み建築が今も文化的遺産として根づいている。
音楽面では、南米らしいフォルクローレやアンデス音楽が豊富であると同時に、ビクトル・ハラやインティ・イリマニといった政治的フォークアーティストが内外に影響を与えてきた。
特にピノチェト政権期の弾圧下において、音楽が抵抗の象徴として機能したことは、チリの文化に深い誇りをもたらしている。
芸術と文学──ノーベル賞に輝く詩の国
チリは、文学において世界的な名声を誇る国でもある。
20世紀の詩人パブロ・ネルーダとガブリエラ・ミストラルは、ともにノーベル文学賞を受賞した偉大な存在であり、ネルーダは外交官としても活躍しながら、愛や革命、自然への賛歌を詩に込めた。
また、ミストラルは女性初のラテンアメリカ出身ノーベル賞受賞者であり、教育と福祉の分野でも足跡を残した。
現代文学においても、ロベルト・ボラーニョの『野生の探偵たち』や『2666』といった作品は、スペイン語圏の文学の中で屈指の評価を得ており、国際的に翻訳されている。
チリの文学は単なる創作にとどまらず、社会や歴史の陰影を織り込み、読者に深い問いを投げかける力を持っている。
また、映画や演劇の分野でも国際的評価は高く、ピノチェト時代の記憶をテーマにした映画『NO』や『The Club』は、世界の映画祭で注目を集めた。
文化芸術が単なる娯楽ではなく、記憶と抵抗、癒やしと希望を表現する手段であることを、チリの歴史は物語っている。
民族の構成と現代の多様性
チリの人口の大半はヨーロッパ系(主にスペイン系)を祖先に持つ人々で構成されているが、その多くは先住民と混血した「メスティーソ」として分類される。
純粋な先住民の割合は人口の10%未満とされるが、文化的影響は今もなお強い。
また、ドイツ系、イタリア系、パレスチナ系、クロアチア系、さらには中国系や日本系など、移民の子孫も多く存在しており、都市部では特に多文化共生の色が濃くなっている。
移民政策自体はこれまで厳格であったが、近年は近隣諸国やカリブ諸国(特にベネズエラやハイチ)からの移住者が増加し、社会的な議論も活発になってきている。
これによりチリは、歴史的には「移民受け入れの門戸を絞った単一国家」から、「多文化化する南米の十字路」へと変化を遂げつつある。
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