ルーマニアと周辺国との関係―地域外交の要衝と黒海やドナウ川を通じた物流、安全保障。隣国間の歴史的背景と現代の連携・課題

 

ルーマニアは東ヨーロッパの要衝に位置し、ウクライナ、モルドバ、ブルガリア、セルビア、ハンガリーの5か国と国境を接している。

その地理的特性から、歴史的にも現代においても、周辺諸国との関係性は国の安全保障、経済、文化、外交と多岐にわたる分野で密接に絡み合っている。

ここでは、ルーマニアの隣国との関係性について、その歴史的背景と現代の動向を交えて読み解いていく。

モルドバ──文化的同胞と地政学的な葛藤

最も特異な関係を持つのが東の隣国モルドバである。

両国は言語、文化、歴史を共有しており、かつてはソ連に取り込まれたベッサラビア地方をめぐって長年の因縁を抱えてきた。

現在では、EU志向を持つモルドバをルーマニアが支援する構図となっており、経済支援、教育連携、エネルギー供給などの協力が進められている。

ルーマニアはモルドバのEU加盟の最大の後ろ盾であり、欧州連合の東方パートナーシップ政策の中でも重要な役割を果たしている。

ウクライナ──戦時下の支援と国境問題

ルーマニアとウクライナは黒海沿岸と北部で国境を接しており、ドナウ・デルタや沿岸諸島をめぐる過去の領有権問題が国際裁判に持ち込まれた経緯もある。

一方、2022年以降のロシアによるウクライナ侵攻以降、ルーマニアは難民の受け入れ、武器輸送ルートの確保、経済支援などで積極的にウクライナを支援している。

NATOの一員としても、黒海地域の安全保障を重視しており、米軍と連携した軍事演習も増加している。

ハンガリー──民族と歴史をめぐる摩擦と協調

ルーマニアにはトランシルヴァニア地方を中心に150万人を超えるハンガリー系少数民族が居住しており、ハンガリーとの間ではこの民族問題がたびたび外交的摩擦を生んできた。

ハンガリー政府は少数民族への文化的・教育的支援を表明しており、ルーマニア政府との間では緊張と協調を繰り返す関係が続いている。

ただし、経済・貿易においては相互依存が強く、鉄道・道路インフラの連結や越境産業の共同プロジェクトなど、EU加盟国同士としての協力体制も進展している。

ブルガリア──ドナウ川を挟んだ同盟国

南のブルガリアとは、ドナウ川を挟んで長い国境線を持つ。

両国ともにEUおよびNATOの加盟国であり、バルカン半島の安定とインフラ整備において共同歩調を取っている。

経済的にも、農産品、観光、物流などの分野で補完的な関係を構築しており、ドナウ川に架かる2本の橋(ジュルジュ=ルセ橋、カルファト=ヴィディン橋)は象徴的な連結点となっている。

両国はまた、黒海地域の安全保障やエネルギー輸送路整備でも連携を強めている。

セルビア──バルカン西部への窓口

西部で接するセルビアとは、民族問題や旧ユーゴスラビア戦争の影響もあって、過去には警戒感があったが、近年では関係改善が進んでいる。

特にエネルギー供給網、鉄道網の近代化、観光ルートの整備などを通じて、地域統合の機運が高まっている。

ルーマニアはセルビアのEU加盟を支持する立場をとっており、西バルカン統合に向けた要となる存在でもある。

黒海・ドナウ地域の要衝としての地政学

ルーマニアは黒海に面した数少ないEU加盟国として、海上貿易、エネルギー輸送、軍事展開の重要拠点を担っている。

特にコンスタンツァ港は東欧最大級の港湾であり、内陸諸国への物流拠点として重要視されている。

また、ドナウ川の流域国との「ドナウ戦略」もEU全体の成長政策の一環として位置づけられており、ルーマニアはその旗手のひとつである。

地域外交の要としてのルーマニア

これら周辺国との関係性を見ると、ルーマニアが単なる「国境を接する国」としてではなく、地域外交において中核的なプレイヤーであることが明白となる。

安全保障、エネルギー、貿易、文化といったあらゆる側面での戦略的連携が模索されており、同国の国際的地位は着実に高まっている。

特に、NATOおよびEU加盟国としての責務と機会を背景に、周辺国との調和ある共存と牽制のバランスを取りながら、持続的な地域安定の担い手を目指しているのがルーマニアという国家の現在地なのである。

ルーマニアの魅力とガイド|ラテン系文化が色濃く残る現代と歴史が交錯する東欧の真ん中。古代文明の面影とドラキュラ伝説