ルーマニアの歴史と文化―ドラキュラ公からチャウシェスク体制まで民族の歩み。公国、オスマン支配、独立に独裁、そして民主化。

ルーマニアは、古代ローマ帝国の影響を受けたダコ=ローマン文化を起点に、中世の公国時代、オスマンやハプスブルク支配、そして独立と王国化を経て独自の国家を築いた。

20世紀にはチャウシェスク独裁と革命を経験し、民主化への道を歩んだ歴史を持つ。

文化面では東方正教会、民俗芸術、文学や音楽が融合し、多様な民族構成と共存の努力が国の特色を形づくっている。

東西のはざまで培われたこの歴史と文化は、現代ルーマニアの独自性を今も色濃く伝えている。

ダキアからローマ、そして「ルーマニア」へ

ルーマニアという国名の由来は「ローマ人(Romanus)」に通じる。

これは偶然ではない。

古代この地にあったダキア王国は、106年、ローマ皇帝トラヤヌスによって征服され、その後の数世紀にわたってローマ帝国の属州として統治された。

この支配の中で、現地のダキア人とローマ人の混血文化「ダコ=ローマン文化」が芽生え、現在のルーマニア語のルーツともなった。

このローマ性の継承が、スラブ語圏に囲まれながらもラテン系言語を話すというルーマニアの文化的孤高を生み出している。

中世の公国と民族の結集

ローマ帝国の衰退後、この地は東ゴート人、フン族、アヴァール人など遊牧民族の通過点となるが、やがてトランシルヴァニア、モルダヴィア、ワラキアの三公国が形成された。

中でもヴラド・ツェペシュ(通称ドラキュラ公)は15世紀のワラキア君主としてオスマン帝国と対峙した戦略家であり、その残忍な統治から吸血鬼伝説のモデルとして世界的に知られる。

 

これらの公国は断続的にハンガリー、オスマン、オーストリア=ハンガリー帝国などの支配を受けながらも、民族としてのアイデンティティを強く保持し続けた。

そして19世紀半ば、ワラキアとモルダヴィアが統合され、近代国家「ルーマニア」の原型が誕生する。

独立、王国化、そして共産体制へ

1877年の露土戦争でオスマン帝国からの独立を果たすと、1881年には王国を宣言。

第一次世界大戦後、トランシルヴァニアを含む諸地域を獲得し、「大ルーマニア」が成立する。

しかしこの時代も長くは続かず、第二次世界大戦ではドイツとの同盟と離反を繰り返し、戦後はソ連の衛星国家として共産化された。

 

1965年に政権を掌握したニコラエ・チャウシェスクは、強権的な統治と個人崇拝によって国を支配し、経済疲弊と社会不安を招いた。

1989年のルーマニア革命でチャウシェスク体制が崩壊すると、ようやく民主化への扉が開かれた。

文化の層──信仰、芸術、民俗の融合

ルーマニアの文化の核には東方正教会の影響が深く根ざしている。

特に北部マラムレシュ地方に見られる木造教会群やモルダヴィアの壁画教会は、宗教と芸術が結晶した世界遺産として知られる。

また、イースターの彩色卵や刺繍入りの伝統衣装など、民俗文化は今もなお農村部を中心に生き続けている。

 

文学では19世紀の詩人ミハイ・エミネスクが「国民詩人」として敬愛されており、その憂愁に満ちた詩風は国民的感性を形作る一因となった。

音楽面ではジプシー音楽に代表されるロマ文化の影響が色濃く、クラシック音楽から現代ポップスに至るまで、多様な民族的音階とリズムが交錯する。

 

都市部に目を向ければ、首都ブカレストには国立歌劇場や国立劇場があり、毎年秋にはジョルジェ・エネスク国際音楽祭が開催される。

文化都市シビウは2007年に欧州文化首都に選ばれ、近年は映画祭や現代美術展の拠点にもなっている。

民族の構成とアイデンティティの模索

ルーマニアの人口の約85%はルーマニア人で占められるが、ハンガリー系少数民族がトランシルヴァニア地方に多く居住し、その他ロマ、ウクライナ人、ドイツ系なども含まれる。

こうした多民族的構成は、ときに政治的・社会的な摩擦の火種ともなったが、現在ではEU基準の人権・マイノリティ保護政策により、共存への努力が続けられている。

 

国内では都市部への人口集中が進み、伝統文化とグローバル化のはざまで民族的アイデンティティの模索が進んでいる。

だがその一方で、民族舞踊や伝統料理(サルマーレやポレンタ)を家庭や祭事で受け継ぐ姿は、いまもルーマニアの根底にある「帰属と誇り」を物語っている。

 

 

このように、ルーマニアの歴史・文化・民族とは、常に「外の圧力に耐えながらも、内なる文化を守り抜く」という系譜に貫かれている。

ローマの血を引き、東方と西方の狭間で育まれたこの国は、現代ヨーロッパの中でも特異な文化的磁場を放ち続けているのである。

 

ルーマニアの魅力とガイド|ラテン系文化が色濃く残る現代と歴史が交錯する東欧の真ん中。古代文明の面影とドラキュラ伝説