ルーマニアは東南ヨーロッパに位置し、カルパティア山脈やドナウ川、黒海沿岸といった多彩な地形が国土を形づくっている。
中央の山岳地帯にはヨーロッパ有数の原生林が残り、野生動物の宝庫として知られる。
さらにドナウ・デルタは世界自然遺産に登録される湿地帯で、豊かな生態系を誇る。
一方、平原や丘陵地は肥沃な農業地帯となり、黒海沿岸は古代からの交易とリゾート文化を育んできた。
自然と人々の営みが共生する国、それがルーマニアである。

地理的位置と国境線
ルーマニアは東南ヨーロッパの心臓部に位置する国家であり、その戦略的な地理的位置は歴史的にも重要な意味を持ってきた。
北東をウクライナ、東をモルドバ、南をブルガリア、西をセルビア、西北をハンガリーと接し、南東部は黒海に面している。
国土の面積は約23万8千平方キロメートルで、ヨーロッパで12番目の広さを誇る。
この国は、バルカン半島の北端に位置しており、中央ヨーロッパと南東ヨーロッパをつなぐ結節点でもある。
黒海を通じて中東やコーカサス地方とも接点を持ち、歴史的には東西交易の交差点としても機能してきた。
こうした地理的条件は、文化、言語、宗教の多様性を形成する土壌となっている。
カルパティア山脈と高原地帯
ルーマニアの国土の中央を占めるのがカルパティア山脈である。
この山系はスロバキアから続くアーチ状の形状をしており、ルーマニア領内では特に標高が高く、同国最高峰であるモルドヴェアヌ山(2,544メートル)を擁している。
登山やトレッキングの名所として知られ、冬にはスキーリゾートとしても賑わう。
カルパティア山脈は自然保護の面でも注目されている。
原生林が多く残っており、ヨーロッパ最大のクマやオオカミの生息地でもある。
特にファガラシュ山脈やピアトラ・クラウルイ国立公園は、生態系保護の観点からEU圏内でも重要な自然地域として扱われている。
山脈の周囲には、古くから人が住み着いてきた高原地帯が広がる。
トランシルヴァニア地方を中心としたこの一帯は、なだらかな丘陵と農地が続く穏やかな風景を呈し、農業や牧畜が伝統的に営まれてきた。
大河と湖:ドナウ川の恵み
ルーマニアのもう一つの地理的特徴が、ドナウ川の存在である。
ドナウ川はドイツの黒い森から発し、ヨーロッパを東西に貫いて黒海へと流れ込むが、その下流の大部分がルーマニアを貫流している。
国境の一部として機能するだけでなく、交通・水資源・農業灌漑・発電といった多面的な役割を果たす生命線である。
ドナウ川が黒海に注ぎ込む地点には、世界的にも稀な自然景観「ドナウ・デルタ」が広がっている。
このデルタ地帯は、湿地、湖沼、流れの緩やかな水路が複雑に交錯し、数千種に及ぶ動植物が生息する生物多様性の宝庫である。
1991年にはユネスコの世界自然遺産にも登録され、エコツーリズムやバードウォッチングの名所としても知られている。
このデルタ地帯には、ユリカモメやペリカンなどの水鳥の大群が渡来し、春から夏にかけては世界中の研究者や観光客を惹きつけている。
地元住民は伝統的な漁業や養蜂、ヨシ原を使った工芸品づくりなどで生計を立てており、現代においても人と自然が共生する稀有な地域である。
平原・丘陵・黒海沿岸
カルパティア山脈を囲むように、モルダヴィア高原、ワラキア平原、ドブロジャ丘陵などが広がっている。
これらの地域は肥沃な土壌を持ち、古くから小麦やトウモロコシ、ブドウなどの農作物の栽培が盛んであった。
今日でもルーマニアの食料自給力は高く、EU域内でも有数の農業国家である。
南東部のドブロジャ地方は、黒海に面した唯一の沿岸地域である。
ここにはコンスタンツァという港町が存在し、古代ギリシア時代から続く交易都市としての歴史を持つ。
現在では黒海を臨むリゾート地としても発展しており、夏季には国内外の観光客で賑わう。
この黒海沿岸部には温暖な気候と砂浜が広がり、ママイアなどのビーチリゾートは特に人気が高い。
また、地中海性気候と大陸性気候の接点にあるため、特有の植生が見られることもこの地域の魅力のひとつである。
気候と環境保全
ルーマニアの気候は全体として大陸性気候に分類される。
つまり、四季が明確で、夏は暑く冬は寒いという特徴がある。
首都ブカレストでは、夏季には最高気温が30度を超えることもあり、冬には氷点下まで冷え込む。
内陸部の山岳地帯では気温差が激しく、積雪量も多い。
このような気候条件は、農業や林業、水資源の利用に大きな影響を与えており、持続可能な資源管理が重要な課題となっている。
森林は国土の30%以上を占め、特に未開発の原生林が多く残されていることが欧州の中でも際立っている。
環境保全政策の一環として、ルーマニア政府は国立公園や自然保護区の整備に取り組んでおり、EUの「ナチュラ2000」ネットワークにも多数の地域が登録されている。
こうした努力により、近年はエコツーリズムやグリーン経済の分野でも注目を集めている。
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[…] ●ルーマニアの地理と自然―カルパティア山脈・ドナウ川・黒海沿岸が形づくる国土。中央山岳地帯の原生林と世界自然遺産の湿地帯 […]