パキスタン外交の核心──地政学の交差点に立つ国。領土紛争、民族・難民問題、経済・軍事協力と資源・貿易関係。

 

南アジアと中央アジア、中東をつなぐ要衝に位置するパキスタンは、周辺国との関係性において常に注目を浴びる存在である。

地政学的な緊張や経済連携、宗教的・文化的共通性、インフラ開発、そして戦略的思惑が交差するこの地域において、パキスタンの外交は単なる隣国同士の交流にとどまらない。

ここでは、パキスタンとインド、中国、アフガニスタン、イラン、オマーンといった近隣国との関係を歴史的経緯と現代の動向を交えつつ読み解いていく。

インド──永遠のライバルとの対峙と対話

インドとの関係は、建国以来の根深い緊張と断続的な交流によって彩られている。

最大の争点はジャンムー・カシミール州を巡る領土問題であり、1947年、1965年、1999年に実際の戦争が勃発している。

特に1999年のカルギル紛争以降、両国は核保有国として相互抑止のバランスの中で対立を続けている。

 

一方で、映画、音楽、料理など文化面では両国間に多くの共通点があり、民間レベルではSNSや移民コミュニティを通じた緩やかな交流も存在する。

宗教やアイデンティティの違いが政治的に強調される一方で、人々の生活感覚には相通ずる部分も多い。

この「対立の中の共鳴」がインド・パキスタン関係の興味深い特徴である。

アフガニスタン──歴史と民族が絡む複雑な隣人

アフガニスタンとの国境は約2,600kmに及び、歴史的にも「デュランド・ライン」を巡る領有問題が燻っている。

両国にはパシュトゥン人という共通の民族集団がまたがっており、その扱いを巡ってしばしば摩擦が生じてきた。

 

また、ソ連侵攻後のアフガン内戦やタリバン政権の台頭、9.11後のテロ戦争といった歴史的局面では、パキスタンはアフガニスタン内の武装勢力や難民問題と密接に関わることになった。

現在もアフガンからの難民は国内に多数存在し、治安・経済・社会基盤に負荷をかけている。

 

他方で、近年では中国主導の「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」をアフガニスタンにも延伸させようとする試みがあり、経済的結びつきの構築を通じて新たな関係性の地平を模索している。

中国──経済・戦略における最重要パートナー

パキスタン外交において、もっとも緊密かつ重要な関係を築いているのが中国である。

両国は「鉄の兄弟」と称される友好関係を維持し続けており、特に中国の巨大インフラ構想「一帯一路」の中核としてCPECが進行している。

中国はエネルギー不足に悩むパキスタンにとって、ダム・送電網・港湾・道路・鉄道など広範囲にわたる投資を行っており、グワーダル港の開発は中国にとってもインド洋への戦略的アクセスを得るという意味で極めて重要だ。

また、軍事面でも中国はパキスタン最大の武器供与国であり、共同開発された戦闘機JF-17などを通じて技術協力も進んでいる。

このように、経済・軍事・外交の三分野において中パ関係は深化の一途をたどっている。

イラン──近くて遠い、複雑な隣国関係

イランとは宗教的・文化的な共通性を持つ南西の隣国であり、シーア派とスンニ派という宗派の違いが時に外交に影響を与える。

特にイランは国内に多くのバローチ系民族を抱えており、パキスタンのバローチスターン地方の独立運動と関連付けられることもある。

 

また、エネルギー分野でのつながりは深く、パキスタンはイランからの天然ガス導管「パキスタン・イラン・インド・パイプライン(IPI)」構想を持っていたが、米国の制裁の影響で実現に至っていない。

とはいえ、地政学的には協調せざるを得ない隣人であり、国境貿易や地域安全保障での協力が模索され続けている。

 

オマーンとアラビア湾岸──海の向こうの歴史的接点

パキスタンとオマーンは海を挟んだ隣国として、古来より交易・移民の交流があった。

特にカラチとアラビア半島諸港を結ぶ航路は、パキスタン系労働者の出稼ぎルートとして重要である。

 

現在も、パキスタンは湾岸諸国に多数の出稼ぎ労働者を送り出しており、その送金は国家経済にとって貴重な外貨収入となっている。

また、湾岸諸国からの投資誘致や宗教的巡礼(メッカ巡礼)などを通じて、イスラーム共同体としての一体感も共有されている。

結語──パキスタン外交の鍵は「緊張と共存」

周辺国との関係において、パキスタンは常に「緊張と共存」という二律背反の間でバランスを取り続けている。

歴史的対立を抱える一方で、経済的には依存や協調を余儀なくされるのがこの地域のリアリティだ。

 

そして近年では、軍事的抑止から経済回廊外交へ、宗教的対立から文化的橋渡しへと、対外関係の軸が徐々にシフトしている。

地域の安定と発展の鍵を握るこの国が、どのように「周辺」と向き合っていくのか。

その舵取りは、21世紀の南アジア全体の未来を大きく左右するだろう。

 

世界が知らないパキスタン──多極都市と多言語社会が描く真の姿。歴史、宗教、文化、経済、外交──パキスタンの真実