リビアはアフリカ最大級の石油埋蔵量を誇り、国家財政の大部分を石油と天然ガスに依存してきた。
しかし、豊富な資源が支える経済は価格変動や内戦による不安定さに翻弄され続けている。
農業や工業、観光といった分野は潜在力を持ちながらも十分に育っておらず、経済多角化は急務だ。
若者の雇用や水資源の確保、インフラ整備など課題は山積しているが、資源依存を超えた新たな成長への道が模索されている。

石油が築いた国家の柱
リビアという国を語るとき、最も核心となるキーワードは「石油」である。
アフリカ大陸の中でも有数の石油埋蔵量を誇るこの国は、20世紀後半以降、石油を軸に経済成長を遂げてきた。
特に1959年に油田が発見されて以降、国家予算の9割以上、輸出収入のほぼすべてを石油・天然ガスが占めるという超資源依存型の構造が形成された。
地下資源の豊富さがもたらす富は、1970年代のカダフィ政権期に国家主導で集中的に運用され、リビアの社会基盤の整備や教育・医療制度の構築を支える原動力となった。
現在でも、リビアの石油確認埋蔵量はおよそ480億バレルに達するとされ、これはアフリカ大陸全体で最も多い水準にあたる。
また、品質の面でも「スイート・ライト・クルード」と呼ばれる硫黄分が少なく精製効率の高い軽質原油が中心で、欧州やアジア諸国にとっては魅力的な輸入先と位置づけられている。
最大の油田であるシャララ油田や、エル・フィール油田、サリル油田などは、いずれも生産能力が数十万バレル規模とされ、エネルギー供給における国際的影響力を有している。
天然ガスと新たな戦略
石油に比べると注目度はやや低いが、天然ガスもリビア経済のもう一つの柱である。
特にリビア北部の地中海沿岸にはガス田が点在しており、液化天然ガス(LNG)としてヨーロッパへと輸出されている。
最大の天然ガス企業である「Waha Oil Company」や、国営の「NOC(National Oil Corporation)」を中心に、外国企業との共同開発も進められている。
特にイタリアのENI社との連携は深く、ガスのパイプライン「グリーンストリーム」を通じてリビア産ガスがイタリア本土へと供給されている。
一方で、内戦の影響により生産の安定性には不安定な側面もある。
武装勢力による油田の掌握や、政治的混乱による施設の操業停止などが繰り返されてきた。
2011年の内戦以降、リビアの石油生産はピーク時の約170万バレルから、時には数十万バレルにまで減少することもあった。
これにより国家歳入は大きく変動し、政府機能やインフラ投資にも影響を及ぼしている。
農業と水資源の厳しい現実
国土の9割以上が砂漠に覆われたリビアにとって、農業は極めて制約の多い産業である。
しかし、沿岸部や一部のオアシス地帯では限定的ながらも農業が行われており、果物や野菜、小麦、オリーブ、ナツメヤシなどが栽培されている。
特に北東部の「ジェベル・アフダル(緑の山)」地域は年間降水量が比較的多く、リビアの中でも例外的に農業が盛んなエリアである。
しかし、深刻な水不足が農業の発展を阻んでいる。
リビアは降雨量が極端に少ない「超乾燥地帯」に分類されており、地下水資源も限られている。
そのため、政府は1980年代から「グレート・マンサ・メガプロジェクト」と呼ばれる巨大地下水輸送計画を実施。
南部の化石水層から北部都市部へパイプラインで水を送るという国家的インフラが整備されてきたが、維持コストの高さや政情不安により運用は常に脆弱である。
工業とサービス業──発展途上の分野
石油やガスに比べると存在感は薄いが、工業も一部では存在している。
トリポリやベンガジなどの都市部では、建設資材、食品加工、繊維、化学製品などの軽工業が行われており、国内需要の一部を支えている。
また、石油化学製品の製造も進められており、国内消費だけでなく一部輸出も行われている。
サービス業に関しては、観光産業が潜在的に有望とされるものの、治安の不安定さから十分に機能していないのが現実だ。
世界遺産に登録されている古代ローマ遺跡群やサハラ砂漠の観光資源は国際的評価も高いが、外国人旅行者数は政情によって大きく左右されている。
リビア政府は観光開発を成長産業の一角としたい意向を持つが、安全保障の問題が依然として高い壁となっている。
経済多角化の必要性と未来の課題
リビア経済の最も大きな課題は、石油・ガス依存からの脱却である。
豊富な天然資源に支えられた国家財政は、短期的には安定性をもたらすが、長期的には脆弱な構造を内包している。
価格変動や地政学的リスクに極端に左右されるため、農業、工業、観光といった他分野の育成が喫緊の課題とされている。
また、若年人口の割合が高いリビアにとって、雇用創出と教育改革は重要なテーマだ。
石油産業は高度な専門性を要するが、雇用吸収力はそれほど高くないため、多様な産業の成長なくしては失業率の低下や社会安定にはつながらない。
現在も多くの若者が失業や不安定労働に直面しており、社会の不満や移民圧力にもつながっている。
リビアは石油とガスに依存する経済構造から、次のステージへ進む分岐点に立っている。
政治の安定、法制度の整備、水資源管理、教育、インフラ開発──これら多くの課題を乗り越えた先に、持続可能な経済成長と産業の多様化が見えてくるはずである。
リビアの未来を占うカギは、まさに「石油の次」にある。