チリと日本は、地理的には地球の裏側に位置するが、その距離を超えて築かれた関係は長く、かつ多層的である。
両国は共に太平洋を臨む海洋国家であり、自由貿易と多国間主義を重んじる価値観を共有している。
経済、外交、文化、教育、人的交流など、さまざまな分野で両国は強固なパートナーシップを築いてきた。
太平洋を越えた絆──チリと日本の関係

外交関係の始まりと深化
日本とチリの外交関係は、1897年に締結された日智修好通商航海条約にまでさかのぼる。
これは日本にとって南米諸国との初めての外交関係の1つであり、以降両国は戦争や政治的混乱の時代を乗り越えながら関係を維持・発展させてきた。
第二次世界大戦中は一時的に断交したが、1952年に国交を再開。
1970年代以降、両国は経済連携を軸に協力関係を深化させていった。
2007年には日智経済連携協定(EPA)が発効し、両国間の貿易額は大きく増加した。
2023年現在、チリは日本にとって中南米諸国の中でブラジル、メキシコに次ぐ重要な貿易相手国となっている。
また、チリは日本が主導する多国間枠組みにも積極的に参加しており、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)にも署名国として名を連ねている。
チリはラテンアメリカにおける数少ない“親日的かつ開放的”な国家であり、日本の外務省もチリを「戦略的パートナー」と位置づけている。
経済連携──銅とサケと日本車
チリと日本の経済関係は、地理的距離に反して極めて緊密である。
太平洋を挟んだ両国は、天然資源と工業製品という互いの得意分野を活かした補完関係にあり、2007年に締結された日・チリ経済連携協定(EPA)は、その結びつきをさらに加速させた。
関税の段階的撤廃により、双方の輸出入が拡大し、2020年代には年間貿易額が80億ドルを超える規模へと成長している。
チリの対日輸出の主力は、世界最大の産出量を誇る銅鉱石および精錬銅である。
特にエスコンディダ鉱山などから産出される高品質な銅は、日本国内の電線、建材、電子機器、EVバッテリーに欠かせない基幹資源であり、その安定供給は日本の製造業の競争力を支える基盤でもある。
さらに近年急増しているのがサーモン輸出である。
チリは世界第2位のサーモン養殖国であり、そのうち約1割が日本向けに出荷されている。
とりわけ空輸による冷蔵・冷凍物流が整備されたことで、寿司用・惣菜用の需要が急増した。
サーモンに加えて、果物(さくらんぼ、キウイ、ぶどう)、ワイン、木材パルプも日本市場で着実な存在感を示している。
一方、日本からチリへの輸出では、自動車・建設機械・重電設備などが中心であり、トヨタ、日産、ホンダなどの日本車はチリ国内で高いシェアを誇る。
加えて、港湾クレーンや掘削機、太陽光発電関連機器といったインフラ投資に関連する機械製品も多く、日本企業はチリの開発プロジェクトへの参加機会を広げている。
物流面では、両国は太平洋を挟んで直接結ばれている。
この直行航路はチリ中部の主要港(バルパライソ港、サンアントニオ港など)と日本の太平洋岸の主要港(東京港、名古屋港、神戸港など)を3週間前後で結び、農産品・水産品の鮮度保持と工業製品の大量輸送に対応している。
このように、銅とサーモンと日本車──という象徴的な産品群を中心としつつ、両国の経済関係はエネルギー、農業、IT、観光、再生可能エネルギーといった新領域にも広がりを見せている。
チリは日本にとって資源の安定供給国であり、日本はチリにとって高品質な工業技術と投資の提供者であるという、明確な相互補完の構図が今後も変わることはないだろう。
文化交流──アニメと日本文化の浸透
文化面でも、チリにおける日本の影響は非常に大きい。
特に若者世代において、日本のアニメや漫画は圧倒的な人気を誇る。
『ドラゴンボール』『ナルト』『ワンピース』『進撃の巨人』といった作品はテレビ放映や動画配信サービスを通じて広く知られており、スペイン語吹き替え版が人気である。
サンティアゴでは毎年アニメコンベンションやコスプレイベントが開催されており、日本のポップカルチャーが若者の共通言語となっている。
さらに、空手、柔道、剣道といった武道の道場も多数存在し、日本文化に対する関心は根強い。
加えて、在チリ日本大使館や国際交流基金が主催する日本映画祭、日本語スピーチコンテスト、日本文化デーなどのイベントも定着しており、文化的な相互理解が着実に進んでいる。
教育・人的交流──留学生とJICAの支援
教育や人材育成の分野でも協力が見られる。
JICA(国際協力機構)は長年にわたり、チリにおける防災技術の普及や地方自治体の能力強化を支援してきた。
特に地震や津波といった自然災害に対する知見の共有は、両国が同様のリスクを抱える海洋国家であることから高く評価されている。
また、チリの大学では日本語学科や日本研究プログラムを持つ機関もあり、留学制度を通じて多くの学生が日本に渡航している。
逆に、日本からチリへの留学生や研究者の派遣も増えており、学術レベルでの交流が活発化している。
人的交流においては、日系チリ人の存在も見逃せない。
20世紀初頭には一部の日本人移民がチリに渡り、現在ではその子孫たちが商業や農業分野で活躍している。
両国間に存在する「人のつながり」も、信頼醸成の重要な柱となっている。
太平洋の向こうにある“戦略的パートナー”
地球の反対側に位置しながらも、チリと日本は互いに欠かせないパートナーとして機能している。
自然資源と工業製品、伝統文化と現代ポップカルチャー、ODAと草の根の交流――これらが複雑に絡み合い、太平洋を越える“絆”を形作ってきた。
今後も、再生可能エネルギーやカーボンニュートラル、スタートアップ支援などの新たな分野での協力が期待されており、両国関係はさらに深化することが予測される。
チリと日本の関係は、物理的な距離を超えた「戦略的連携」の好例であり、21世紀の国際関係における模範の一つであるといえる。
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