南米大陸の縁をなぞるように細長く伸びる国土を持つチリ。
地理的な特異性と歴史的な背景が、隣接するペルー、ボリビア、アルゼンチンとの関係に独自の緊張感と連帯の構造を生み出してきた。
戦争や領土問題を経て築かれた複雑な外交の足跡、そして地域経済圏との戦略的連携。
チリは常に「隣人」とどう向き合うかを問い続けながら、地域と世界の接点を模索し続けている。
この記事では、アンデスの国境を挟んだそれぞれの関係性と、21世紀における対話と共創の可能性を読み解いていく。
アンデスの隣人たち──チリの周辺国との関係

南米大陸の西端に長く伸びるチリ。
隣接する国は、北から順にペルー、ボリビア、アルゼンチンの3か国。
これらの国々とは国境を接しており、経済・政治・文化・安全保障の面で緊密かつ時に複雑な関係を築いてきた。
また、チリは中南米全域との連携にも積極的であり、地域ブロックへの参加を通じてその影響力を高めている。
ペルーとの関係──戦争から協調へ
チリとペルーは、19世紀末に勃発した「太平洋戦争(1879~1884)」において激しい戦闘を交えた歴史を持つ。
この戦争では、チリがペルーおよびボリビアの連合軍と争い、最終的に勝利した結果としてアリカやタクナといった地域を獲得した。
この戦争は、ペルーとチリの間に長らくしこりを残すこととなり、20世紀中盤まで外交的緊張が続いた。
しかし、21世紀に入ると関係は着実に改善されている。
両国は南米の自由貿易協定「太平洋同盟(Alianza del Pacifico)」の主要メンバーとして経済連携を強化しており、特に貿易、観光、インフラ整備などの分野で協力が進んでいる。
2008年には海洋境界を巡る対立が国際司法裁判所に持ち込まれ、2014年の判決後には両国が裁定を尊重し、一定の和解ムードが醸成された。
現在、ビジネスや教育、文化交流の面でも接点が増えており、緊張と対話を繰り返しながらも、共通利益を模索する関係へと移行しつつある。
ボリビアとの関係──海への出口をめぐる対立
チリとボリビアの関係は、ペルーとの関係以上に根深い課題を抱えている。
ボリビアは「太平洋戦争」でチリに敗れ、太平洋への海岸線を完全に失った。
この出来事以来、ボリビアは「海への出口(Salida al mar)」の回復を国家的悲願として掲げ続けてきた。
21世紀に入ってからも、ボリビアはチリに対して外交的圧力を強め、2013年には国際司法裁判所に対して「領土交渉の義務がある」として訴えを起こした。
しかし、2018年のICJ判決では、チリに交渉の義務はないとされ、チリの主張が認められた。
この判決は両国関係に冷却効果をもたらしたが、それでもボリビア側では海洋アクセスを求める世論が根強く残っている。
一方で、経済面では現実的な協力も進んでいる。
ボリビアはチリの港湾都市アリカやアントファガスタを経由して物資を輸出入しており、港湾利用に関する協定も存在する。
また、エネルギー、鉱業、道路インフラなどの分野では限定的ながら実務的な交流が行われている。
アルゼンチンとの関係──山脈を挟んだ同胞
チリとアルゼンチンは南米大陸の南端に位置する隣国同士であり、アンデス山脈を境界として国境を接している。
両国は19世紀後半以降、領土問題などを巡って断続的な対立も経験してきたが、冷戦以降は安定的な関係を築いている。
1984年の「バチカン調停(Beagle Channel問題)」を契機に、両国は国境紛争を外交的に解決する姿勢を強め、以後の関係改善に大きな役割を果たした。
21世紀の現在に至るまで、チリとアルゼンチンは貿易やエネルギー供給、観光、文化など幅広い分野で協調関係を深めており、「戦略的パートナー」として互いを位置づけている。
また、両国は共に南米南部共同市場(MERCOSUR)やラテンアメリカ・カリブ経済共同体(CELAC)などの地域機構にも参加し、経済統合の進展にも貢献している。
特に再生可能エネルギー、水資源管理、山岳観光などの分野では国境を越えた共同プロジェクトも推進されている。
地域連携と国際戦略──太平洋同盟とチリの多国間志向
チリは周辺国との二国間関係に加え、「太平洋同盟(Alianza del Pacifico)」という地域経済連携の枠組みに積極的に関与している。
この同盟は、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリの4カ国で構成されており、自由貿易、関税撤廃、人の移動の自由化、スタートアップ支援などを目的としている。
チリは同同盟の創設メンバーであり、「開かれた経済」と「外資誘致」を軸に、南米の中でも特にグローバル志向の強い国として外交方針を取ってきた。
また、MERCOSURやAPECにも参加しており、地域ブロックを横断した柔軟な外交戦略が特徴的である。
さらに、オセアニア諸国との連携や、アジア太平洋地域との自由貿易協定(TPP11=CPTPP)への参加など、太平洋を跨いだ多国間外交も展開しており、隣国との関係性を土台にしながらグローバル市場へのアクセスを模索する姿勢がうかがえる。
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