アルゼンチンの産業構造|南米の経済大国の強みとは?牛肉・ワイン・リチウム・ITが支える成長の裏側。農業と新産業の現在地。

アルゼンチンと聞いて、タンゴ、サッカー、そして牛肉を思い浮かべる人は多いだろう。

しかし、その豊かな文化と生活の背景には、広大な大地と多様な産業が複雑に絡み合っている。

南米第二の経済大国としての地位を支えるのは、農業、牧畜業、鉱業、エネルギー資源、製造業、そして近年台頭するIT・観光分野である。

本稿では、アルゼンチンの主な産業構造と生産物、そしてその背後にある歴史的・地理的要因に迫っていく。

アルゼンチンの産業構造|南米の経済大国の強みとは?牛肉・ワイン・リチウム・ITが支える成長の裏側。農業と新産業の現在地。

アルゼンチン
アルゼンチン

パンパの恵み──農業大国アルゼンチンの中核

アルゼンチンは世界有数の農業大国である。

国土の約60%が農用地として活用されており、特に「パンパス(Pampas)」と呼ばれる中部平原地帯は、肥沃な黒土に覆われた穀倉地帯として知られている。

パンパスは灌漑をほとんど必要とせず、自然の雨量と温暖な気候により年間を通じて安定した生産を可能にしている。

 

同国の主要な農産物は、小麦、トウモロコシ、大豆の三大穀物である。

中でも大豆は輸出の主力であり、中国やインド、EU諸国、日本などが主要な輸出先となっている。

アルゼンチンはブラジル、アメリカに次ぐ世界第3位の大豆生産国であり、その約90%が遺伝子組み換え作物である。

これにより高い収穫量を維持しているが、同時に環境破壊や健康への影響についての議論も巻き起こっている。

 

また、ヒマワリや綿花、サトウキビ、ワイン用ブドウなども生産されており、特にブドウの栽培はアンデス山脈の東麓、メンドーサ州を中心に発展してきた。

アルゼンチンワインは近年国際的評価が高まり、「マルベック種」を中心とする赤ワインは欧米市場での存在感を強めている。

ガウチョの国──牧畜業と牛肉の誇り

アルゼンチンと牛肉。

この二語は切っても切れない関係にある。

国民一人あたりの牛肉消費量はかつて世界一を誇っており、今なお生活の中に肉文化が深く根ざしている。

アサード(Asado)と呼ばれる炭火焼きのバーベキューは、週末の家族行事として定着しており、庶民の食卓から高級レストランに至るまで牛肉は主役を張り続けている。

 

国内には約5,400万頭の牛が飼育されており、これは人間の人口とほぼ同数である。

牧畜は主にパンパス地帯で行われており、自由放牧によって育てられた牛は、成長ホルモンや抗生物質を最小限に抑えた自然な肉質が特徴だ。

EU諸国や中東、日本などへの輸出が盛んであり、アルゼンチン産牛肉はその品質と安全性により世界市場でも高い評価を受けている。

 

さらに、羊や山羊の飼育もパタゴニア地方を中心に行われており、羊毛やチーズなどの畜産加工品も地場産業として発展している。

地中の富──鉱業とエネルギー資源

アルゼンチンの地下には、農業とは対照的な産業の核となる鉱物資源が眠っている。

リチウム、金、銀、銅、鉛、亜鉛、ボロンなどが採掘されており、特に近年注目を集めているのが「リチウム」である。

 

アルゼンチン北西部に位置する「リチウム・トライアングル」は、ボリビア、チリとともに世界のリチウム埋蔵量の半数以上を占める。

リチウムは電気自動車のバッテリーやスマートフォンなどに欠かせない戦略資源であり、今後のグリーンエネルギー転換において極めて重要な役割を果たす。

アルゼンチン政府はこれを国家戦略産業として位置づけ、外資導入による開発を進めている。

 

また、石油と天然ガスも重要なエネルギー源であり、南部ネウケン州には「バカ・ムエルタ(Vaca Muerta)」と呼ばれる世界最大級のシェールオイル・ガス田が存在する。

この埋蔵量は、アルゼンチンのエネルギー自給率を飛躍的に高め、将来的な輸出産業としての可能性も秘めている。

工業と製造業──都市部に集中する産業構造

アルゼンチンの製造業は主に首都ブエノスアイレスおよびその周辺に集中しており、自動車、食品加工、化学製品、金属製品、繊維など多岐にわたる。

特に自動車産業は国内市場だけでなく、メルコスール(南米南部共同市場)域内への輸出により発展してきた。

 

しかし、経済危機やインフレ、輸入制限、為替不安といった構造的課題により、製造業は近年苦境に立たされている。

多くの企業が安価な外国製品との競争に晒され、設備投資の停滞や生産性の低下が課題となっている。

とはいえ、食品加工やワイン産業、革製品など、アルゼンチンの強みを活かしたニッチ産業は一定の競争力を保っている。

ITと観光──新時代のフロンティア

近年、アルゼンチン経済における新たな成長エンジンとして期待されているのが、情報通信産業と観光業である。

首都ブエノスアイレスには、多くのスタートアップやソフトウェア開発企業が集まり、南米の「シリコンバレー」としての地位を築きつつある。

政府もデジタル経済への転換を促進し、リモートワークや外資系IT企業の誘致に積極的である。

 

一方、観光業はパンデミックで大打撃を受けたものの、イグアスの滝、ロス・グラシアレス氷河、パタゴニア、ワインツーリズムなど、多彩な自然と文化資源を活用した観光回復が進んでいる。

特に近年は欧州や北米の富裕層をターゲットとしたエコツーリズムやラグジュアリー旅行の開発が注目されている。


アルゼンチンの産業構造は、パンパスの肥沃な土地を土台にしつつも、鉱物資源、エネルギー、製造業、そしてデジタル産業といった多様な要素が織り成す複合的なものとなっている。

国家財政やインフレ問題など課題は山積しているが、それでもこの国には自然と知恵、そして情熱がある。

銀の国アルゼンチンは、21世紀の新たな価値を掘り起こす鉱脈を、今もなおその大地の中に抱えている。

 

 

アルゼンチン観光・文化・歴史の魅力を深掘り|タンゴと牛肉と銀の国。自然・制度・文化・歴史、日本との関係まで